秋田県仙北郡美郷町(旧六郷町)は、あちこちから清冽な水が湧き出る「名水百選」の里として知られています。この水の都で、一際異彩を放つこだわりを持つのが、合名会社栗林(くりばやし)酒造店です。
代表銘柄「春霞(はるかすみ)」が掲げる理想は、「ごはんの時に、おいしいお酒」。その柔らかな味わいを支えるのは、栽培の難しさから一時は「幻」となりかけた秋田独自の酒米「美郷錦(みさとにしき)」への並々ならぬ情熱です。
このページでは、地域の農家と共に歩み、土地の個性を酒に映し出す栗林酒造店の魅力について、その歴史やこだわりを深く掘り下げて紹介します。
栗林酒造店の歴史
栗林酒造店の歩みは、単なる伝統の継承に留まらず、土地の恵みを再発見し、それを現代の感性で磨き上げてきた挑戦の歴史でもあります。ここでは、百五十年にわたる蔵の興りと、大きな転換点となった現代の取り組みについて触れていきます。
創業と水の里・六郷での産声を上げる
栗林酒造店の創業は1874年(明治7年)。蔵を構える六郷は、古くから奥羽山脈の伏流水が豊富に湧き出る土地で、酒造りに最適な環境が整っていました。創業以来、地域の人々の生活に寄り添う酒を醸し続け、地元に根ざした酒蔵としての地位を築いています。
伝統の継承と「食中酒」への進化
大きな転換期となったのは、現当主である七代目・栗林直章氏が蔵に戻った2000年代初頭のことです。それまでの伝統を守りつつも、「より食事を引き立てる酒とは何か」を追求し、酒質の設計を大幅に見直しました。派手な香りよりも、米の旨味と穏やかな酸が調和した「飽きのこない酒」へと舵を切ったのです。
地域農家と歩む「テロワール」の確立
近年では、単に酒を造るだけでなく、「原料米の背景」を重視した酒造りに注力しています。蔵の周辺で米を育てる農家とのチームワークを強固にし、特定の田んぼの米だけを使用した「栗林」シリーズを展開するなど、秋田・美郷でしか表現できない「テロワール」の追求を続けています。
代表銘柄「春霞」の名の由来
「春霞」という情緒豊かな名前には、蔵が理想とする柔らかで包み込むような酒質と、飲む人の心を和ませる想いが込められています。ここでは、そのネーミングに込められた背景と、お酒のコンセプトについて解説します。
「春の霞」のように穏やかな余韻
「春霞」の名は、春の訪れを告げる風景に漂う、淡く柔らかな霞(かすみ)をイメージして名付けられました。万葉集などの古歌にも詠まれるこの言葉は、日本人の心にある「優しさ」や「穏やかさ」を象徴しています。お酒自体も、角が取れた円熟味と、すーっと喉を通り抜ける軽やかな余韻を目指して醸されています。
「ごはんの時に、おいしいお酒」を体現する味
春霞が何より大切にしているのは、食卓の主役である料理を邪魔せず、かつ引き立てることです。
吟醸香が立ちすぎない穏やかな香りは、料理の香りを邪魔しません。柔らかな酸が一口ごとに口内をリセットし、次の一箸を誘います。
この一貫したコンセプトにより、和食のみならず洋食や家庭料理とも相性の良い、現代の食卓に欠かせない銘酒として支持されています。
栗林酒造店のこだわりや特徴
栗林酒造店の個性を形づくるのは、秋田独自の酒米「美郷錦」へのこだわりと、恵まれた自然環境です。
幻の酒米「美郷錦」への情熱
「美郷錦」は、酒米の王様「山田錦」と、寒冷地に強い「美山錦」を交配して生まれた秋田独自の品種です。しかし、栽培が非常に難しく一時期は作付けが激減しました。
栗林酒造店はこの米の「奥行きのある旨味と、上品な酸の出方」に惚れ込み、地元の農家と協力して主力米として復活させました。今では「美郷錦といえば春霞」と言われるほど、その特性を知り尽くした唯一無二の使い手となっています。
名水百選「六郷湧水群」の仕込み水
蔵の裏手からもコンコンと湧き出る「六郷湧水群」の水。この水は、秋田県内では珍しく適度なミネラルを含む中硬水に近い軟水です。この水が、美郷錦の力強い旨味を引き出しつつ、後口に心地よい「キレ」を与えています。
自社酵母「亀山酵母」の活用
蔵に長年住み着き、受け継がれてきた「亀山酵母」などを中心に使用。過度な華やかさを抑え、米本来のポテンシャルを最大限に活かすことで、落ち着きのある上品な味わいを実現しています。
栗林酒造店の酒蔵情報
| 所在地 | 秋田県仙北郡美郷町六郷字米町56(Googleマップで確認) |
|---|---|
| 代表社員 | 栗林直章氏 |
| 杜氏 | 栗林直章氏 |
| 代表銘柄 | 春霞 |
| 酒蔵見学 | 不可 |
| 直売所 | 有 |
| 公式HP | https://harukasumi.com/ |
| 公式オンラインショップ | 無 |
栗林酒造店のおすすめ銘柄
| 春霞 純米酒 赤ラベル | 春霞 純米大吟醸 黒ラベル |
|---|---|
| 美郷錦100%使用。ふくよかな旨味と、後から追いかけてくる綺麗な酸が特徴。冷やからぬる燗まで幅広く楽しめます。 | 美郷錦を贅沢に磨いた逸品。透明感がありながら、芯の通った米の甘みを感じられます。特別な日の食卓に。 |
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秋田の風土と米を愛する人のための酒
栗林酒造店は、秋田独自の希少な酒米「美郷錦」と共に歩むことで、他のどこにもない唯一無二の個性を確立しました。その酒は、一杯で完結する派手なものではなく、日常の食事を豊かにし、人と人との会話を弾ませる名脇役です。
美郷の清らかな水と、農家の愛情が詰まったお米。そのすべてが溶け込んだ「春霞」を、ぜひ今夜の夕食と一緒に楽しんでみてください。きっと、日本酒がもっと身近で、愛おしい存在になるはずです。



